黒目(虹彩)の後ろには水晶体があります。水晶体はカメラではレンズに相当し、目の奥の網膜にピントを与える役割をしています。
この水晶体が濁ってくることを白内障と言います。
初期にはまぶしく感じる程度ですが、進行すると視力が低下し放置すると失明する場合があります。
個人差はありますが白内障は年齢とともに誰でも起こります。外傷、アトピー性皮膚炎、ステロイド治療が原因で早期に白内障がおこることがあります。
・かすんで見えてくる。
水晶体の濁りが中心部に及んでくると本や新聞を読む時に目が疲れる、人の顔がぼんやりかすんで見えてくる、目の中に蚊が飛んでいるような違和感を覚える、などの症状が現れます。濁りがひどくなるとかすみも強くなり、次第に物が見えなくなってきます。
・まぶしくなる。
水晶体が濁り光がその部分で反射するため、光が強い戸外や夜間クルマを運転する際の対向車のライトがまぶしく感じ、中心部に濁りがある場合には特にまぶしさが強くなります。
・暗くなると見えにくくなる。
水晶体は高齢になればなるほど黄色く着色してきます。これに水晶体の濁りが加わると暗いところでは特に見えにくくなります。
・一時的に近くが見えやすくなる。
水晶体の中心にある核の濁りが強くなると屈折力が増して一時的に老眼が治ったような状態になり、老眼鏡が無くても近くが見えるようになることがありますが、遠くは見えにくくなります。
・物が二重に見える。
水晶体の濁り方の度合いにより物がいくつか重なり合って見えてしまいます。
・基本的に痛みや充血はない。
水晶体には神経や血管などの痛みをともなう器官は無いので痛みや充血は基本的にありません。
しかし極希に水晶体の濁りが進んで緑内障を併発した場合には急に痛みや充血が起こる場合があります。
白内障を改善させる方法は手術以外にはありません。手術は超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行います。
点眼麻酔後、白目の黒目の境目に2mmほどの切開を行います。これは超音波器具や眼内レンズを挿入するための入り口です。水晶体前面の外層の膜を円形に切開します(CCC)。その後水晶体内容物を超音波で乳化(小さく砕く)し内容物をすべて吸引除去します。水晶体の外層の膜(水晶体嚢)は残し、その水晶体嚢の中に眼内レンズを挿入し手術は終了します。ほとんどの場合縫合は行いません。
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多焦点眼内レンズ挿入術(Multifocal IOL implantation) [字幕] English
手術時間は概ね20分程度です。
手術は濁った水晶体の中身を摘出し、代わりの人工レンズを挿入します。
目薬による局所麻酔をしますので痛みはほとんど無く、超音波で細かく破砕して水晶体の中身を取り出すので切開創も3㎜程度です。手術時間も20分程で終了します。
【白内障手術の注意点、合併症】
ただし、白内障が極端に進行している場合や水晶体を支えるチン支帯が劣化したり断裂したりしている場合には手術が困難な場合があり手術時間が長くかかることがあります。そのような難症例の場合予め報告しておきますが、手術をやってみてチン支帯が劣化したり断裂したりしていることがわかることもしばしばあります。そのような場合、超音波手術を継続すると水晶体内容物が下方の硝子体中に落下し、難易度の高い硝子体手術が必要になります。そのため最初から水晶体嚢外摘出術 (ECCE) を行う場合や途中から変更する場合もあります(後述)。
また目の表面の透明な組織である角膜は裏面に角膜内皮細胞といった透明性を維持させるための重要な細胞があります。超音波手術では角膜内皮細胞密度がおおよそ3~5%減少します。多くは問題なることはありませんが、白内障が極端に進行している場合やもともと角膜内皮細胞の密度が低い場合には、角膜が混濁し角膜移植が必要になる場合があります。そのため、そのような症例では超音波手術ではなくECCEを選択します。
感染症も危険な合併症です。めったにおこるものではありませんが、一旦感染症が生じると急速に悪化するため、対処が遅れると失明することもあります。そのために術後はこまめに診察を受けることが必要です。
【小切開水晶体嚢外摘出術:小切開ECCE 】
ECCEとは超音波手術が行われる一時代前の手術です。現在は超音波手術では切開創は3mmくらいですが、通常のECCEでは12~15mmと大きく切開します。そのため手術時間が30~60分とかかり、術後の乱視も大きくなります。当院では特殊な小切開ECCEを行っています。切開創は7~8mmで水晶体核を引き出します。
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小切開ECCE
手術時間は15分程度で角膜内皮細胞密度低下も軽微です。
【眼内レンズについて】
もともと水晶体は網膜にピントを合わせる役割があります。手術で水晶体をとり除くと強い遠視になり、眼鏡で矯正するには非常に厚いレンズになるため見え方はあまりよくありません。そのため白内障手術では同時に眼内レンズを挿入します。
通常の保険診療では単焦点レンズで焦点は一ヵ所しかありません。微調節には、眼鏡が必要になります。手術後の見え方については事前に患者様と相談いたします。
当院の過去10年間(2008年~2017年)の白内障手術の実績
西暦(和暦) |
件数 |
2008年 (平成20年) |
1,288 |
2009年 (平成21年) |
1,497 |
2010年 (平成22年) |
1,530 |
2011年 (平成23年) |
1,083 |
2012年 (平成24年) |
759 |
2013年 (平成25年) |
887 |
2014年 (平成26年) |
981 |
2015年 (平成27年) |
1,291 |
2016年 (平成28年) |
1,284 |
2017年 (平成29年) |
1,203 |
過去10年間の合計 |
11,803 |
Q1.どのタイミングで手術を受けたら良いでしょうか?
A. 基本的には仕事や家事、車の運転など日常生活に支障を来たし始めた時、と考えます。ただ、緑内障などの合併症を引き起こしそうな場合には日常生活に不自由が無くても手術を勧める場合があります。手術を怖がって白内障を放置しておくと、手術が難しくなり合併症が出やすくなりますので、定期的に診察を受けつつ主治医と相談することが大切です。
A. 今の医学では一度濁った水晶体を元に戻すことはできませんので、手術で人工レンズに置き換える以外に方法はありません。
Q3.手術を受ければ必ず良く見えるようになりますか?
A. 生まれつき視力の良くなかった方や眼底や角膜、視神経などに白内障以外の病気がある方は、視力改善が困難な場合があります。それらが予見される場合には術前検査時に医師より説明いたします。
A. 白内障のほとんどは老化現象の一つです。目をカメラで例えるとレンズに相当する「水晶体」が濁ってくることでほとんどの場合は加齢に伴うものです。「水晶体」は主にタンパク質で構成されており、若い頃は透明ですが紫外線などの外部からの刺激等により40代~50代から徐々に濁りが生じていきます。糖尿病やアトピーなどの内科的全身的疾患のある方は、若いうちから白内障が生じることがあります。また、外傷により白内障になることもあります。
Q5.若いうちに白内障の手術をした場合、例えば何年後かに再度手術をしなければならない等のデメリットはありますか?
A.眼内レンズ自体は劣化することはないため、一度手術をしてその後再手術になることはほとんどありません。ただし、外傷及びもともと水晶体を支えるチン支帯が弱くて眼内レンズがずれてくる場合には手術が必要になることがあります。
Q6.白内障の手術を受ける際は入院しなければなりませんか?
A. 手術自体は入院しなくても可能です。ただし、術後4、5日は毎日診察を受けて頂く必要がありますので、ご自宅が遠方で通えない方などは入院することも可能です。
A. 外来での手術の場合、健康保険3割負担の方は片眼(単焦点)約45,000円、2割負担の方で約24,000円、1割負担の方で約12,000円程です。
A. 傷口が塞がるまでは、やはり慎重に考える必要があります。主治医から許可が出るまでは洗顔や洗髪をしないでください。眼や頭をぶつけるとよくありませんので激しい運動なども避けてください。
A. 手術直後は度が安定していないため、直ぐに作り直すとまたすぐに度数が合わなくなってしまいます。概ね2週間後から1か月後くらいですが、個人差がありますので診察時に医師と適切な時期を相談してください